三田市立図書館への指定管理者制度導入を阻止する(・_・)/ホームページへ戻る

「まちづくりと図書館 −図書館の可能性−」(常世田良氏講演会)に参加してきました (・o・) "講演会記録(速報版)"



★2013年10月20日の「まちづくりと図書館 −図書館の可能性−」(常世田良氏講演会)に参加してきました。当日のメモをもとに、速報版をまとめました。一部記録もれがありますし、誤りがあるかもしれませんが、ご容赦ください。この記録は主催者の方の正式な記録ではありませんのでご注意ください。また、講演記録の間のURLは参考のために挿入したものです


「まちづくりと図書館 −図書館の可能性−」(常世田良氏講演会)・記録(速報版)

2013.10.20(総合福祉保健センター・多目的ホール)13:10-15:45
主催:三田市の図書館を考える市民の会
天気:雨のち曇り
参加者:約60人

開会

(三田市の図書館を考える市民の会・代表世話人)
図書館への指定管理者制度の導入について、「なぜそんなに急ぐのか」ということで、市長・市議への手紙を出し、署名活動もしてきたが力及ばず、指定管理者制度が導入されることになり、指定管理業者の選定が進んでいる。11/12にプレゼンが行われ、12/5には業者が決まってしまう。この流れを止めることは不可能かもしれないが、市民のためのより良い図書館であってほしいという願いで活動をしていく。市議会の傍聴にも行ったが本質的な議論は行われなかった。三田市は開館日の拡大と開館時間の延長ぐらいしか出してきていない。今、図書館とはどういうものなのかを、もう一度つきつめて考えたい。常世田良さんにお話ししていただくが、何らかの示唆が与えられれば良いと思う

講師紹介

1996年から浦安市立図書館長をされ、日本図書館協会理事や文部科学省「これからの図書館の在り方検討協力者会議」委員、現在は立命館大学教授をされています

講演「まちづくりと図書館 −図書館の可能性−」

講師: 常世田 良(立命館大学教授・元浦安市立図書館館長)

私はいつも晴れ男で、こういった講演がある時は大体晴れているし、そうでなくても講演の間だけ晴れていることが多いのですが、今日は強力な雨男か雨女がいるようです。テーマが今日の天気のように湿っぽいですが、肩の力を抜いて、リラックスして聞いてください

そもそも、図書館ってどういうものかについてお話をして、だから図書館の運営はどういう形が良いかということをお話しします。会場からもご意見や質問をいただいて、みなさんと一緒に考える時間を持ちたいと思います

昔から理想的な図書館がどういうものかについての論議が続いているが、実はそういうものはないということです。その図書館がある自治体、まち、住民、年齢構成、産業構造がそれぞれ違う。他のまちでうまくいったとしても、それが三田でうまくいくとは限らない

図書館は社会のあり方と独立して、社会の動きとあまり関係ないイメージがありました。しかし、図書館は社会の動きと密接に連携する必要があります。税金を使って運営しているのに、そのまちの動きと無関係というのはいかがなものか、ということです

三田市のあり方は、兵庫県の中の三田市、日本の中、ネットの情報、世界とも関係しており、グローバルな関係の中で考えないといけない。また、それらはすごいスピードで変化している

日本の課題、日本の社会の変化として、情報と個人、情報と組織の関係がある。これはネットの発達のためだけではない。少し以前から「自己判断・自己責任型社会」ということが盛んに言われている。その前は、民主主義社会の実現のためには、一人一人が判断する力を持たなければならない、ということが言われていた

これまでの日本はどういう社会だったのか、それをご紹介します

(ビデオ紹介)NHK プロフェッショナルの流儀 File.118
http://www.nhk.or.jp/professional/2009/0519/
小樽市役所の職員から国家公務員になり、地方再生の手助けをしている方の紹介。その中で、「地方公務員は考えない」という指摘があった

これまでの日本の行政は、国 → 県 → 市 というように、言われたとおりにやってきた。(言われたとおりにやることが誰にでもできるわけではないが)。日本以外の国は成果主義で、とにかく結果を出せばいいが、日本はやり方自体に指示が出る。行政だけではなく、トヨタのカンバン方式など、産業界も系列で親会社の言うことを聞いて成功してきた。明治維新後、欧米に対抗するためには、多様性や試行錯誤することが許されなかった。そのやり方で発展したものが、戦争ですべて無くなって、戦後同じようなやり方で大成功して、GDPは世界3位になっている。そこで怖いのが成功体験で、みんな同じように考える社会になっている。今は、多様性を発揮しないといけない。ひらめきで新しい産業をおこす必要があるが、それが日本が不得意な分野で、例えば日本は高性能なパソコンが作れるが、中に入っているOSやアプリケーションはアメリカ製です。アメリカのベンチャーは半分くらいが成功しているが、日本のベンチャーは1000あっても成功するのは1つか2つと言われている。日本も戦国時代は多様性があって、言葉も国ごとに違っていたりしたが、明治時代以降は多様性が失われてしまった

いま、これまでのやり方ではうまくいかないということになって、一人一人が色々考えて、自己判断を自己責任で行う競争型社会という方向に、いつの間にか舵をきられている。私たちは誰もそういう社会になるということを聞いていませんが。前の社会の方がいいんじゃありませんか。考えなくていいから楽じゃないですか。これからの若い人は大変です。「自己判断・自己責任型社会」になっていきます

(ビデオ紹介)『バカの壁』養老孟司の紹介
考えることと考えないことは対になっている。「水を入れたコップにインクを落とすと、色が消えてしまうのはなぜか」ということを学生に聞いたところ、「そういうものだと思っていました」という言葉が返ってきた

「そういうものだと思っていた」ら、そのことは考えなくてすむ。これまでの日本の教育は、考えることと考えないこと峻別し、言われたことを上手に仕上げるような人を育ててきて、(考えなくてもすむことを考えるような)よそ見をする余裕がなかった。事務処理能力が高く、命令一下動くことができるような教育には成功した

会社などで、「これまでにない提案をするように」といった指示があっても、実際にそういう提案をすると、「大丈夫なのか」とか「本当に儲かるの」といったことを言われてしまう。「これまでにない提案」なのだから、そんなことは誰にも分かるはずがないのに

今、日本の社会は、国 − 県 − 市 が同列になっていて、「みなさんのまちのことはみなさんで決めて責任を持ちなさい」という自己責任の社会になっている。規制緩和により、法律ではすでに国・県・市町村は並列ということになっている。図書館の委託についても、文部大臣が反対していても、市町村の自己判断でできてしまう

民間でも系列が崩れて親会社からの仕事がなくなったので、例えば東大阪の町工場では「まいど1号」という人工衛星を作り、去年成功している。中小企業の独立が起こっている。大森、蒲田というところにも町工場があり、深海調査船を作った。親会社があったら別にこんなことをしなくてもいい。ピラミッドのような組織の時代だと、上から降りてきたことをすればよかったが、今はもう降りてこない。「自己判断・自己責任」に必要な情報も降りてこない

これからは三田市の自治体が考えなければいけない。しかし国・県とは違い、市だけでは必要な情報が集めきれない。(先ほど紹介したような)町工場も従業員10人といった規模で、自分たちで将来性を見通せるような情報は来ない。同じように、農家は農協からの情報だけではやっていけないし、地方議員が党の中央からの情報だけではやっていけない。必要な情報が手に入れやすい勝ち組がずっと勝ち組ということになってしまう

判断するための情報が必要なところに届かなければならない。そこで、勘の良い方は図書館がその役割をするのだな、と気づかれたと思います。しかし、それ以外の本屋さんやマスコミやネットはどうなのか。 失業して困った時に、テレビをつければ役立つ情報が流れてくるかといえば、そんなことはない

アトピーの本を探しに本屋さんに行った時に、見つけることができるのか。日本では1年間に、漫画を除いて約8万タイトルの本が出版されています。1週間では1500冊です。これらの本をすべて入れていると、本屋さんはすぐにいっぱいになってしまいます。本はどんどん返されて、出版者の倉庫で眠ることになります。出版界は本・雑誌の売り上げが2兆円を切っています。ユニクロは1社で売り上げが2兆円を超えていて、出版業界が非常に小さいことが分かります。今、出版業界では刷部数を減らしています。専門書など、かつては5000部ほど刷っていたものを、1000部や500部にしています。日本には1万5千軒の本屋さんがあって、500部の本がそこに配られていて、売れなければ1週間とかで返品されてしまう。そんな状況で、必要な本に出会えるのは宝くじ並みの確率です

必要な情報が個人に届くかということに関して、本屋さんやマスコミでは十分ではない。ではネットはどうなのか。ウィキペディアには百科事典くらいしか情報が出ていないので、そこに紹介されている参考文献に当たらないといけない。そもそもウィキペディアは紙ベースの情報をもとに作られているので、転記間違いなどもあり、ネタ元の本に当たる必要があり、日本のウィキペディアは信用できないと言われている

みなさんがGoogleで検索する時には、同じようなキーワードで探していることが多いようです。そこで、100万件ヒット、200万件ヒットと表示されますが、それらをすべてチェックしている人はいますか? では、1万件ならどうでしょう。1000件なら、100件、50件。50件とかでも全部見ない。また、Googleの検索結果の上位の方に表示順位を上げる技術があり、どうでもいい情報が上がってくることがある。(100万件、200万件ヒットと言っても、実際には1000件くらいで、あとはこのまま検索を続けて行ったらヒットするであろう理論値を表示しているだけ、とも言われている)。結果のうわずみの方の10件、20件くらいしか見ない。ネットの世界は多様な情報があると言われているが、みなが同じ言葉で検索して、そのうわずみの10件、20件くらいしか見ないのであれば、ほとんど同じものしか見ないことになる。そのどこに多様性がありますか

Yahoo!はGoogleと検索エンジンは同じだが、結果表示が少し異なる。また、ディレクトリ検索があることが特徴的

関西に住むようになって、時々東京に戻ると、朝の電車で男性も女性もみんなが黒いスーツで、働く人のまちだなと感じる。京都は観光客ばっかりで、服装がとてもカラフルで、みんな上を向いて歩いていたりする。東京の働く人は、電車でみんな日経新聞を読んでいて、会社でもその話をしたりするが、みんなが同じものを読んで同じ話をするので、多様性がない

従来の情報チャンネルではいけない。多様な情報を地域の人に届けるために、図書館が必要じゃないかということです。一人一人の人に必要な情報が届いて、自分で判断できることで、日本の閉塞を破ることができる。歴史上で最も日本の図書館が役に立つ時代が来ている

公共施設で最も利用が多いのは図書館です。このことは首長や議員でも知らない人が多い。スポーツ施設など、ある世代によく利用されている施設、というものはあるが、図書館は多世代にまんべんなく利用が多い。単位面積当たりの来館者はデパートより多い、とも言われている。静岡市、豊島区、塩尻市、青森市など、図書館を設置して中心市街地の活性化を図っているところがある。人が集まるところなので、市役所の業務のPRにも効果的です

図書館をあらゆることの相談窓口にしようというと、すでに特化した相談窓口というものがある、ということを言われることもある。医療・健康相談、法律相談、産業についての窓口が市役所にある、と言われるが、それがどこにあるか知っている人はいますか。いつももっと知っている人は少ないのですが、今日は何人かの手が上がりました。それでも1割もいないのはなぜか。それは、そういう問題が起こらないと、その窓口に行けないからです。用がないのに言っても、何しに来たと言われてしまいます。どんな人がいて、どんなサービスをしているかが分からない状態で、問題が起こりパニックになってしまうと、その窓口のことなんて思いつかない。土・日が休みのことも多い。また、そういった相談窓口に、平日市民が並ぶことはない

図書館のカウンターには行列ができる。図書館には毎週行っていて、窓口にどんな人がいるのか知っている。親しくしている図書館員がいて初めて、親の介護、リストラといった問題も相談できるのではないか。人生の問題は複合して起こる。例えば会社の社長が入院したとき、病気について、会社の経営について、家庭について、保険について、など、色々な問題が同時に起こる。特化した個別の相談窓口では問題を全体的に解決することはできない。図書館では全体の問題解決のための糸口がある。さらに専門窓口への紹介も可能です

(ビデオ紹介)
鳥取県立図書館の紹介。会社を起こしたい、という人に情報提供を行っている。利用者のコメント「仕事のできる社員が図書館にいる、というイメージです」

ビジネス支援サービスを行う図書館はこの10年間で400館くらいまで増えている。番組の実例では、営業をしていた時に、台風で壊れたシャッターが多いことに気づいた利用者が、それを補強する商品を作ることができないかを図書館で相談をした。図書館だけで情報を調べ、台風、シャッター、起業の際のお金の借り方、商品のデザイナー(マイクロソフトのX boxのデザイナー)の紹介などをしてもらい、シャッターを風から守る商品を開発し、Gマーク(グッドデザイン賞)ももらった
http://www.library.pref.tottori.jp/hp/menu000002200/hpg000002149.htm

浦安の実例では、自社ビルの屋上にネオンサイン等を設置するための資料を探したこともある。そういったことが図書館で調べられることを知らない人も多い。質問は図書館で聞けば良く、これをレファレンスサービスと呼びます。書名が分かっていなくても大丈夫で、例えば「認知症について役立つ本」といった聞き方で大丈夫

失業問題と自殺の問題について。日本は自殺大国と言われていて、25分間に1人が自殺している。若者の自殺も多く、その原因は失業である。失業率と自殺率はほぼ連動している。それに対して、図書館が何かできないか、ということで鳥取県立図書館では情報の提供を行っている。再就職をするためのコーナーを作っている。失業後にはうつ状態になったりするので、うつを直すための本、その後に就職の本や資格の本などがある。実際に今にも自殺しそうな友達に本を教えて、最終的に再就職ができた例もある

(ビデオ紹介)
就職関連本のコーナーを設置している図書館の紹介。今までなかった、書き込み式の資格参考書などの本も入れるようになった。とても貸出が多い。面接の本や会社の情報も調べることができる。「調べ方が分かった」という感想。たくさんの本を無料で利用することができる

ビジネス支援についてはアメリカは100年の歴史がある。図書館員が外に出て行って、レストランや花屋や葬儀屋に困っていることがないか聞いてきて、それを図書館で調べて結果を届ける、というサービスをやっている。図書館が地域の問題を知らないということがあっていいのか、ということ

ビジネスで重要なヒントは商品に関することで、それは商工会議所などにはないこと。図書館には森羅万象あらゆる情報があり、従来の相談窓口とは決定的に違う

(ビデオ紹介)
病院の中にある図書館「からだ情報館」の紹介。分かりやすい本や、医学生・看護学生が読むような専門的な本もあり、看護師・司書の専門家が常時スタッフとしていて、本やパンフレットの紹介を行っている
http://www.twmu.ac.jp/info-twmu/karada-jyohoukan.html

高齢化社会が進んでいるため、医療情報や健康情報の提供はこれから大事になってくる。病気になる人が多くて病院が儲かるということは、自治体のコストが上がっていくこと。図書館がそういった情報を提供することで、そのコストを下げることができる

医療情報の提供についてもアメリカが進んでいる。オバマケアのことで分かるように、アメリカには公的な保険がないため、医療費というのが大きな問題になっている。医療情報の提供の窓口が地域の図書館である。大きな図書館では医療情報専門の司書がいる。そういった窓口で治療方法についての最新情報を得て、医師に「あなたがこの治療法をできないのなら、できる医師を紹介するように」というように医師と議論をするインフォームドコンセントが行われている。それをサポートするのが図書館

日本もだんだんそういう状況になりつつある。最近は訴訟を起こされることを恐れて、産婦人科の医師のなり手が少なくなっている。今、若い医師たちのやり方では、治療法を患者に提示して、それを患者自身が自分に合った治療法を選択するようになっている。Eテレ(教育テレビ)で「チョイス」という番組があり、
http://www.nhk.or.jp/kenko/choice/
病気になった時の選択肢を紹介する番組で同じような内容です。医師は治療法についてメニューを提示し、患者は生活に合うように選ぶことになる。昔は町に1軒しか病院がなく、みんな同じ治療を受けていたが、今はどうするかを自分で判断しなければいけない。図書館はその判断材料を提供することができる。配布資料で、自分の親が病気になった時に、自分の図書館で医療情報を探して、その情報が少なすぎることを感じ、医療情報の充実をしなければならないという記事や、自分自身が入院した時の体験を書いた記事があるのでご覧ください

私自身の経験としては、人間ドックに行った時に胃カメラが気持ち悪いので、麻酔をしてもらおうと思い、その麻酔の危険度を聞いたところ、担当の先生から「僕の経験だと大したことはない」ということを言われました。そういう個人の体験を聞きたいのではなくて、ちゃんとした客観的なデータがほしいのに。さらに、終わった後に車を運転して帰ろうとすると、「麻酔をした後だから本当は車を運転しない方が良いけど、自己責任で運転して帰ります」というような書類を出してきてサインさせられる。最初からちゃんとした情報が入らないことが多い

「自己責任」ということだけが一人歩きし、必要な情報が手に入らない。そこで、身近な図書館が大切になってくる。このことについては、イデオロギーも右も左も関係ない。必要な情報がないと、結論を間違ってしまう。例えば、1+2+3という計算式の「+3」という必要な情報が隠されていたら、誰だって結論を間違ってしまう

配布資料を見ていただきたいが、PISAの学力調査で1位のフィンランドで、日本の視察は学校を見学していたが、大臣に話を聞いたときに「フィンランドでは図書館に力を入れている」と説明を受けている。学力の向上には学校だけでは不十分ということです。アメリカのオバマ大統領も上院議員時代に図書館の重要性についての演説を行っている
http://current.ndl.go.jp/e855

別刷の配布資料の「図書館のミッションを考える」という記事は、総務大臣だった片山善博さんが書いたもので、こちらもまた読んでほしい。鳥取県の知事をしていた時に、図書館の行政支援サービスということで、「図書館はそのまちの市役所の仕事を支援しなさい」と言った。市役所だけでは情報を集めていくことは無理だし、慣れない市役所職員が情報集めに時間をかけるのではなく、情報の専門家である図書館がそれを行い、図書館が集めた情報で役所の人間が判断する、ということにした。また庁議の場に、県立図書館の司書を同席させた。議論の中で疑問点があった時に、今までなら1週間後の会議までに調べてくるということになって決定が遅れていたが、司書を同席させることで疑問点をすぐに県立図書館に連絡して調べさせて、その場で回答を提供することで決定がすぐにでき、図書館が行政にとって役立つ存在であるということを示した

こういった「役に立つ図書館」を運営するには一定のコストが必要です。民間委託というのは安上がりにはなるが、このような「役に立つ図書館」は民間では不可能です。実際に民間の運営でこのような図書館をやっているところはありません。「安物買いの銭失い」という言葉があるが、直営であっても指定管理者制度であっても、(お金をかけずに)中途半端な図書館を作るぐらいなら、いっそやめた方がいい。図書館に1億円をかけたとしても、1.5億円のアウトプットがあれば、その分税収が上がるわけで、かけたコストの分以上にアウトプットがあればいい。だから財政力のないまちでもいい図書館を作っているところはある

「みんなの図書館」2007年7月号に、民間の図書館と直営の図書館のコスト比較の記事が出ている。実は民間の方がコストが高いということが分かる。図書館の職員にアルバイトが多い場合は、委託しても安くはならない。市役所のアルバイトの時給は大体800円くらいだが、これを委託にすると1800円から2000円かかる。直営だとアルバイトを2人雇うことができる。もし、正規職員ばかりの図書館で、その職員も昨日水道局から異動してきたばかり、というような図書館であれば安くなるかもしれないが

それに、図書館で働いていた正規職員の人たちがクビになるわけではなく、本庁に行って今まで通り働くのなら、全然安くなるわけではない。このような魔術や錯覚が横行している。私は委託を否定しているわけではなく、機械管理や清掃など委託して良いものもある

民間委託というのは本来「手段」であって「目的」になることはない。図書館を民間にしても安くなるわけではなく、民間に図書館のノウハウも蓄積も成熟したビジネスモデルも存在しない。例えば清掃については、清掃専門の会社が民間にはあって、市役所の職員がやるよりも効率が良い。しかし、図書館が民間にありますか。今日ご紹介したような、高度な情報提供サービスをやっている民間の図書館はないのに、なぜ委託できるのか

民間の図書館で働くのは、その会社の正規職員ではなく、その会社の雇ったアルバイトの人たちが来ます。普通の図書館でアルバイトの人はカウンターでの貸出でピッピッとやっているだけで、そういう人たちがいきなり高度なサービスを行うことは無理です。しかも、その人たちは年収200万円以下で官製ワーキングプアと呼ばれる人たちです。その人たちが最初は図書館で働きたいという熱意があって働いていても、年収200万円以下では熱意が続かずに辞めていく人がたくさんいる。図書館で働きたい人はたくさんいるから、次々に募集はできるが職員は定着しない。一人前の司書になるのには最低10年はかかる。今日ご紹介した鳥取県立図書館でビジネス支援をしていた司書のようなベテランになるのには10年以上かかる。民間委託をしてああいう人が育つのか。民間委託では3年、5年で違う企業に変わるので、連続性がなくなってしまう。子供が懐いていた図書館員も次の年にはいないということになる。そんな無理なことをして、なぜ委託をするのか。全国で指定管理者制度を入れている図書館は1割で、9割が直営でやっている

指定管理者制度は企業が知恵を絞って儲けなさい、という制度です。プールとか博物館とかはお金を取る施設ですが、図書館はお金が取れない。100%委託料なので、企業が儲けようとすると人件費を削るしかない。図書館の命である「人」、そこを奪うことになってしまうので、私は指定管理者制度には賛成できない

指定管理者制度だと、市民の監視の枠外になってしまい、直接市民が監視することが不可能になってしまう。市議会で図書館の運営の問題について追及しようとしても、企業の社長を議会に呼ぶということはできない。企業が運営する図書館に関する問題は、市の責任になってしまうので、市が責められることのないように、企業を守るようになってしまう

配布資料で紹介しているが、指定管理者制度から直営に戻した図書館もある。(福岡県小郡市立図書館、島根県安来市立図書館、高知県南国市立図書館)

司会者コメント

図書館が様々な役割を担うことのできる公共施設であるということが分かりました。今まで専門家がそこにいることを考えてこなかったが、もしもこのまま指定管理者制度になって直営でなくなると、その専門家を失うことになってしまう

質疑応答

Q1: 「自己判断・自己責任型社会」において、図書館の機能が大事であるということがよく分かった。情報の量と質が大事であるが、大都市の図書館の蔵書・司書の多さと比べ、小さなまちの図書館では格差があるのではないでしょうか。また、そういったことに対応するために、本のデジタル化といった方向性も必要だと思いますがどうですか

A1: とてもいい質問だと思います。大都市と地方との格差と、デジタル化の見通しについて。ちょっとイメージしてもらいたいのですが、水道をイメージしてください。図書館は蛇口です。貯水池は遠くにあります。図書館のコンセプトはネットワークであり、人的なネットワークと資料のネットワークで、デリバリーシステムがあります。国立国会図書館や東大の図書館、ハーバード大からも本が取り寄せできる。ちゃんとした優秀な図書館員がいればということですが
例えば、あなたがとても嫌いな相手がいたとして、毎晩呪いをかけているが、なかなか効果がない。そういった時に、もっと強力な呪いの本がないか、というようなことを、まちの小さな図書館で相談すると、「ルワンダの奥地にとても強力な呪いがあります」と答えがあって、図書館に行くと呪いの本のコピーが用意されている、というようなことです。これはちょっと不適切な例ですが
地方ほど、優秀な司書が必要です。アメリカはとても広いので、ワシントンやニューヨークにはなかなか行けない。遠いところほど図書館が必要です。アメリカは競争社会なので、どこにいても同じ情報がひっぱれるように

デジタル化についての状況では、作家と出版社との合意によって、来年1月から国立国会図書館の1986年出版までの本が、自由に図書館で読めるようになります。みなさんのまちの図書館でです。徐々にデジタルで本が読めるようになってきているが、日本の出版界は少し逆行してきていて、急いで本を電子化しなくてもいい、ということになっている。紙の本と電子の本で出すものを分けている出版社も多く、当分は本のデジタル出版は遅れる。一気にすべての本について電子化が進むわけではない。A社はデジタル化に熱心だけどB社はそれほどでもない、医学の分野はデジタル化が進んでいるが、料理の分野はそれほどでもない、というように出版社やジャンルによってスピードが違い、どちらの本を選ぶかで混乱した状況になる。だからこそ優秀な図書館員が必要です

図書館というと建物と本というイメージが強いが、本当はマンツーマンのサービスなんです。図書館の本当の肝は優秀な司書であって、本の名前を言わずとも司書に探させることができ、アメリカのことわざでも「図書館員は市民の時間とお金を節約することができる」という

今日のお話しできなかったことで、法律情報の提供についてですが、これにはカウンセリングをすることが大事です。調べたいテーマを持ってくる人の8から9割は必要な情報についての最終目的を絞れていません。それを図書館員との会話で見つけていくことができます。司書は「どういう本がどこにありますか?」という質問を受けて、本棚に案内するまでの短い時間でそれを聞きだしていきます。リサイクルの本といっても、中学生の宿題なのか、会社でのことなのか、主婦の方が取り組もうとしているのかによって、提供する本はまったく違います。こういったことは、コンピュータが発達しても、コンピュータがやってくれないことです

もし図書館が単に小説を貸すだけの民間委託の施設でいいのであれば、それを選択することも自己判断・自己責任です。でも、高度な情報サービスを提供する、そういう図書館があることを知らないまま判断するというのは、もったいないことです

配布資料に、法律関係の記事があります。暴力団によって娘の命を奪われた主婦、普通の主婦だった人が図書館で法律を学んで、司法試験の勉強のために図書館に通う学生の助けも得て、闘っていったということがあります
http://www.mbs.jp/eizou/03.html(暴力団被害者達は今〜ひとり娘を亡くした母の闘い〜)
公民館は、サークル活動のために来て帰ってということが多く、人と人との交流が少なくなっているが、この例のように図書館には交流があります。昔のように静かにしなければいけない施設ではなく、人と人とが交流する公民館的な機能ができてきている。法律情報サービスはビジネス支援とも密接に関係がありますし、ビジネス支援、医療情報提供サービスなど、日本各地にそういったサービスをやっている図書館があります。今、会場でそういった図書館の活動を紹介したパンフレットを回覧していますので、ぜひ参考にしてください

Q2: 市会議員の厚地です。三田も素晴らしい図書館、まちづくりのためにある図書館を目指していきたいと思います。公立図書館の司書は本を並べていたらいいというのは間違いで、公立でも民間でも理想的な図書館ならいいと思います。三田市では現在の公立の市職員では無理という判断があった。組合との話の中で進まないということで、民間委託は手段ですが、より良い図書館にするために、朝夕の開館時間を延ばして、休館日を減らしてサービス拡大をしていこうということで、時間の延長が本質的な論点です。よその図書館がしているように、外部の専門家によるモニタリングもしていこうということですが、いかがでしょうか

A2: 開館時間を延ばした後に、ぜひチェックをしてほしいと思います。このことは、選挙と同じでして、つまらない選挙は投票時間を延ばしても投票率は上がりません
(会場から拍手。「異議なし」の声)
中身が大事であって、質が低い状態で開館時間を空けても利用がばらけるだけ。市民はサービスの質というものを感じています。質と量はトレードオフで、質をそのままにして量を拡大しようとすると、その分質は下がってしまう。民間の図書館で高度な情報サービスをやっているところはありません。民間で外部の研修に1人の人が行くとなると、図書館で1人が欠員となるのでそれを誰かが埋めなければならない。そんなコストを企業がかけれるかということになる。委託費にコストをかけられるのか

組合との関係の話で言うと、組合がいい図書館を作るわけではないということはある。組合は地方公務員の身分を守るためのものなので。これは一般論で、三田がどういう状況かは分からないが。ただ、優秀な図書館員というのは非常に熱心で、図書館のためなら徹夜をしてもいいし、誰かが止めないといくらでも働いてしまう人たちがいる。優秀な専門職を少数精鋭で雇うべき。地方公務員の地位保全ということとは合わないと思うし、優秀な図書館員に現場を任せたならそうならない。そこはうまく調整してほしいと思います

Q3: (Q2の人の再質問)
サービス業は給料が高いからというわけではない。質と量で、同じ給料でも人材によってどこまでやるかの違いがある。国鉄がJRになったことで、サービスの内容が良くなったということもあるので、同じような計算をするのはどうか

A3: 日本の図書館の質を評価する手段があるか。評価をちゃんとやっている図書館はあるか。建前の調査をやっているところはあるが、レファレンスの質についての調査をやっているところはない。年収が200万円の人に(今日紹介したような)ネオンについての質問ができるだろうか。給料が低いと定着率が低い。それだと図書館がおかれている地域の特性を知り、ニーズを知ることもできない。1年や2年では良いサービスはできない。地に足がついたサービスをすることが民間にできるか。それなら、委託の図書館の人に給料をたくさん出せばいいのか、というとそれなら直営の方が良いということになる

これから、地方の中小規模の自治体では、いくつかの市が一緒になって、広域で図書館をやった方が良いかもしれない。アメリカでは図書館は市立ではなく、いくつかの市が集まったCounty ― 日本では群と訳されますが ― が専門職を雇います。消防組合などのように、ある行政サービスを行うのに最もいい大きさをするのが本当の行革で、優秀な正規職員を雇ってコストを抑えることができる

Q4: 市会議員の肥後です。図書館の機能について、就労支援や行政へのサービス、議員へのサービスなど、今日の話はとてもよく分かった。そういったことが実現していたのなら、今日のように指定管理者制度の話が出なかったのではないかと思う。全国の図書館では、どれだけの図書館がこのように充実したサービスを実施しているのか教えてほしい

A4: なかなか難しい質問ですが、今日ご紹介したようなトップレベルのサービスをしている図書館は10%くらいではないか。全国には1200〜1300の自治体があり、図書館がないところもある。(トップレベルのサービスをしているところは)首長がそういう方針でやっている。浦安市もそうだし、滋賀県は武村知事が来たころは図書館のレベルは下から数えた方が早いぐらいだったが、図書館の振興を行って、ベスト3に入るぐらいになった。そのあたりの良いサービスをしていれば良かったのかもしれない。半分は現場の責任だし、もう半分は現場を管理する当局の責任で、組合の責任もあるのかもしれないが、このような状況になっているのはとても残念です。もし当局と組合のあつれきの道具に図書館がされたのだとすると残念です

Q5: 私も市会議員をしています。今回の指定管理者制度について反対をしましたが導入が決まってしまい、とても残念です。全国での導入も1割しかなく、本館も含めて指定管理者制度を導入しているところは1%弱しかありません。指定管理者制度になると企業は儲けを取らないといけないので、人件費を削り司書が定着しない。本来の図書館の機能が低下してしまいます。質問ですが、(三田市の指定管理者制度では)本の選書や廃棄について市が責任を取るということで、最後のチェックのみを行うとされています。チェックがなかなかできないと思うし、市の職員がそのチェックをできるのだろうか。それについて何か良い方法があれば教えてください

A5: 良い方法があれば委託でもいいということになりますが。選書というのはよく誤解されますが、良い本を選んでいるわけではありません。図書館の限られた本棚の中に森羅万象のミニチュアを作る、ということです。森羅万象は人類の知識で、人間が良く知っていることの分野は少し多くなるように、人間が知っている知識の割合に応じて本を選んでコレクションを構成し、バランスをとっていく。例えば、ある年に中華料理の良い本がいっぱい出版されたからといって、それをたくさん選んでしまうとそのバランスが崩れてしまう。コレクションの構成のことを考えて、良い本が出たとしてもそれを買わないこともあるし、逆にコレクションの足りない部分については、それほど良いわけではなくても、その分野の本が必要ということで買うこともある。これらの構成を、10年、20年、30年といった期間で、新陳代謝をしながらサイクルさせていく。本の廃棄で1冊の本を捨てた後に、同じ分野の1冊の本でカバーできればいいが、2種類の本の知識を合わせないとカバーできないこともある。新しい知見が出てくることもある。そのように蔵書のバランスを取っていくことは、図書館の状況が頭に入っていないとできない。最後に調味料として、三田市の地域性を考慮に入れていく。カウンターで会う人のニーズを知り、誰がその本読みそうかというところまで分かる、それが優秀な図書館員です。本棚はそういうことで形成されていくので、そういったことを抜きにして本をチェックするだけということはできません。

Q6: (Q5の人の発言)
指定管理者制度の図書館ではうまくいかないし、市役所のチェックも不可能ということが分かった。市民のためにどんな図書館になったらいいのかを考えていきたい

A6: この問題というのは、イデオロギーの問題ではありません。市の職員の身分も組合のことも市議会の議会の勢力も、そういったことは何の関係もありません。(図書館がどれだけ充実しているかによって自治体は)5年、10年たつと差が出てくる。年収200万円以下で働き続けて高度な図書館サービスができるのかということを考えてほしい

★図書館の役割について理解が深まりました。とても分かりやすい講演会だったと思います。当日参加できなかった方も、この記録を図書館の可能性について考えるきっかけにしていただけたら幸いです


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